THE HIGH LIFE MONACO

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エッセイ

2026.08.20

オートクチュールを手放すということ

以前、

着なくなったオートクチュールを、

何着かパリのPalais Gallieraに寄付しました。

Palais Gallieraは、

パリ市立のファッション美術館です。

最初に寄付のお話をしたとき、

少し不思議な気持ちになったことを覚えています。

自分のためにつくられ、

自分が実際に袖を通してきた服を、

美術館へ渡す。

洋服を「手放す」というよりも、

その服の次の人生を託すような感覚でした。

そして今年、

Palais Gallieraで開催されている

「Weaving, Embroidering, Embellishing. The Crafts and Trades of Fashion」

という展覧会を訪れました。

この展覧会は、

織りや刺繍、レース、刺繍など、

ファッションを支えてきた職人たちの仕事に光を当てたものです。

そこで、

思いがけない再会がありました。

私が一番最初に購入した、

シャネルのロングドレスが展示されていたのです。

白いロングドレスに、

首元から裾まで、

ゴールドの刺繍が流れるように施された一着。

カール・ラガーフェルドによるシャネルの

2014–2015年秋冬オートクチュール近代建築の巨匠ルコルビュジェとヴェルサイユ宮殿をインスピレーションにモダニズムとバロック装飾を融合したコレクションのドレス

刺繍はAtelier Montexによるものです。

自分のクローゼットにあった頃には、

もちろん大切にしていました。

でも、

美術館のケースの中で、

照明を浴びながら展示されている姿を見ると、

まったく違う服のように見えました。

近くには、

刺繍を手がけた職人の技術や、

その制作背景についての説明があります。

そこで初めて、

このドレスは、

私が着るためだけにつくられたものではなかったのだ、

と思いました。

たくさんの職人の手。

長い時間。

受け継がれてきた技術。

そうしたものが集まって、

一着の服になっている。

私が所有していたのは、

その長い物語のほんの一部分だったのかもしれません。

オートクチュールを仕立てるようになった頃は、

「このドレスをどこへ着て行こう。」

そんなことを考えていました。

でも、

年月が経つにつれて、

少し考え方が変わりました。

どんなに美しいドレスでも、

いつかは着なくなる時がきます。

クローゼットの中に、

ずっとしまっておくこともできます。

でも、

それよりも、

多くの方に見ていただき、

職人の技術やファッションの歴史を伝える一着として残っていくほうが、

このドレスにとって幸せなのではないか。

そう思うようになりました。

そして、

実際に美術館で展示されている姿を見たとき、

寄付してよかったと、

心から思いました。

少しだけ、

娘をお嫁に出したような気持ちでもありました(笑)。

でも同時に、

とても誇らしい気持ちでした。

オートクチュールは、

とても個人的なものです。

自分の身体に合わせ、

自分のためにつくられる。

だからこそ、

所有する喜びがあります。

でも、

本当に素晴らしいものは、

一人の人の所有物で終わる必要はないのかもしれません。

誰かが着た服が、

いつか美術館に入り、

また別の誰かがその刺繍を見て、

「こんな技術があるんだ」

と感動する。

そうやって、

美しいものが次の世代へつながっていく。

それも、

オートクチュールのもうひとつの魅力なのだと思います。

最初に購入したシャネルのドレスを、

何年も経って美術館で再び見る。

あの頃の私は、

そんな未来を想像していませんでした。

服は、

着て終わるものではない。

時には、

自分の手を離れてから、

新しい物語が始まることもある。

Palais Gallieraでそのドレスを眺めながら、

私はそんなことを感じました。