エッセイ
2026.08.17
オートクチュールと聞くと、
華やかなドレス。
何百時間もかけて施された刺繍。
世界に一着だけの特別な服。
そんなイメージを持たれる方が多いかもしれません。
私自身も、最初は
「とても高価で、特別な人だけの世界」
という印象を持っていました。
でも、実際に仕立ててもらうようになって、
少し見方が変わりました。
これまで私は、
シャネル、
ディオール、
アルマーニで、
オートクチュールを仕立ててもらったことがあります。

ブランドによって雰囲気はそれぞれ違います。
でも、共通しているのは、
一着の服を完成させるために、
驚くほど多くの時間と人の手がかけられていること。
何度もフィッティングを重ね、
ほんの数ミリ単位で調整しながら、
立ったとき。
歩いたとき。
座ったとき。
その人が一番美しく見えるバランスを探していきます。
オートクチュールでは、
自分が服に合わせるのではなく、
服のほうが自分に合わせてくれる。
私は、そこがとても面白いと思っています。
そして、
オートクチュールの魅力は、
そのシーズンに発表されたものを、
そのまま選ぶだけではないことです。
過去のアーカイブから作品を選んだり、
色を変えたり、
自分に合うように少しアレンジしたりすることもできます。

例えば、
カール・ラガーフェルドによる
シャネル Fall Winter 2018/19 のドレス。
ショーでは白で発表されていました。
とても美しいドレスでしたが、
私が白で着ると、
どうしても少しウェディングドレスのように見えてしまう気がしました。
そこで、
「グレーにできますか?」
とお願いしました。
そして仕上がったのが、
このグレーのドレスです。
同じデザインでも、
色が変わるだけで、
印象は驚くほど変わります。
白の持つ可憐さから、
少し落ち着いた、
大人らしい雰囲気へ。
こうして、
デザイナーの世界観を大切にしながら、
自分の年齢や雰囲気、
そして実際に着る場面に合わせて、
少しずつ自分の一着にしていきます。

また、
夏に着られるスーツが欲しいと思ったときには、
ガブリエル・シャネルが手がけた
過去のアーカイブのデザインを選びました。
何十年も前のデザインなのに、
今見ても古く感じません。
むしろ、
流行を追いかけてつくられたものではないからこそ、
時代を超えて残る美しさがあるのだと思います。
メゾンが長い年月をかけて残してきたアーカイブから、
今の自分に合うものを選び、
自分の身体に合わせて、
もう一度仕立ててもらう。
それは、
昔の服をそのまま再現するというより、
メゾンの歴史を、
今の自分の生活の中に取り入れるような感覚です。
フィッティングの時間も、
私はオートクチュールの楽しみのひとつだと思っています。
最初は、
まだ完成した服ではありません。
肩の位置。
袖の長さ。
ウエストのバランス。
スカートの丈。
ほんの少しずつ調整しながら、
だんだんと自分の一着になっていきます。
その過程を見ていると、
「服を買う」というより、
一緒に作品をつくっているような気持ちになります。
私にとって、
オートクチュールの贅沢とは、
価格ではありません。
時間。
手仕事。
職人の技術。
そして、
自分のために一着が生まれていく過程。
そのすべてを含めて、
オートクチュールなのだと思います。
ショーで発表された最新作を、
自分の色に変えることもできる。
何十年も前のアーカイブから、
今の自分に似合う一着を選ぶこともできる。
完成された服の中から
「自分に合うものを探す」のではなく、
服のほうを、
少しずつ自分に寄り添わせていく。
私が知ったオートクチュールの世界は、
想像していた以上に、
自由で、
繊細で、
とても人間的な世界でした。
そして、
一着の服が完成するまでに関わった、
たくさんの人の手を知るほど、
その服を長く大切にしたいと思うようになります。
オートクチュールとは、
特別な日のための服であると同時に、
美しい技術と時間を、
次の時代へ残していく文化でもあるのだと、
私は感じています。