THE HIGH LIFE MONACO

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エッセイ

2026.08.10

私が着物を着るようになったきっかけ

実は私は、もともと着物を着ることに少し抵抗がありました。

着付けには一時間ほどかかります。

締めつけられるので、ドレスほど着心地がよいわけでもありません。

そして、何より大変なのがお手洗いです。

着崩れないように気をつけながら、長い袖や裾を扱わなければならず、慣れないうちはそれだけで一苦労でした。

ですから以前の私は、着物を見るのは好きでも、

「自分で着るのは少し面倒かもしれない」

と思っていたのです。

そんな私が着物を着るようになったきっかけは、思いがけない一言でした。

あるとき日本で、モナコのアルベール大公殿下のお隣に座らせていただく機会がありました。

その際、ブルーノ大佐から

「なんなら、着物を着てきてくれるとうれしいな

と言われたのです。

その言葉を聞いて、

「それなら、着物で伺ってみようかしら」

と思いました。

自分のためだけなら、きっと面倒に感じていたと思います。

でも、日本人として、その場で着物を着ることを喜んでいただけるのなら。

そう考えると、着付けにかかる時間も、それほど苦には感じませんでした。

そして実際に着物を着て出席すると、想像していた以上に多くの方が喜んでくださいまし

「とても美しいですね」

「帯にはどんな意味があるのですか」

「これはどのような場面で着る着物ですか」

着物をきっかけに、自然と会話が生まれます。

褒めていただいているのは私ではなく、着物という日本の文化なのだと感じました。

その日を境に、私の着物に対する気持ちは少しずつ変わっていきました。

着付けは大変。

動きにくい。

お手洗いも一苦労。

その事実は、今もあまり変わりません(笑)。

でも、それ以上に、着物を着ることで生まれる出会いや会話が楽しくなったのです。

着物の種類。

季節に合わせた柄。

帯や帯締め、帯揚げの組み合わせ。

知れば知るほど、そこには奥深い世界がありました。

気がつけば、すっかり「着物沼」です。

そしてついには、夏の訪問着を二着も誂えてしまいました。

少し前の私なら、

「夏に着物なんて、暑くて大変そう」

と考えていたと思います。

それが今では、夏の光に合う色や、涼しげに見える柄を考えながら、仕上がりを楽しみにしています。

着物には、洋服とは違う美しさがあります。

ただ華やかに装うのではなく、

季節をまとうこと。

相手への敬意を表すこと。

そして、日本の文化を静かに伝えること。

海外で着物を着ていると、私はいつもより少し背筋が伸びます。

それは、自分のためだけの装いではないと感じるからです。

最初は面倒だと思っていた着物が、今では新しい世界への扉になりました。

人生には、たった一言をきっかけに、それまで縁がないと思っていたものが、かけがえのない楽しみに変わることがあります。

私にとって着物は、まさにそんな存在です。