エッセイ
2026.08.05
私の夫は、とてもグルメです。
レストランを食べ歩くことが大好きで、私自身も美味しいものが好きなので、星付きのレストランへ行く機会も自然と多くなりました。
でも、正直に言うと、
私は幼い頃からフランス料理に慣れ親しんでいたわけではありません。
学校でテーブルマナーを学ぶ機会はありましたが、それはあくまでも知識としてのものでした。
実際に身につけていったのは、ヨーロッパへ来てからだったように思います。

最初の頃は、レストランで周りの方をよく見ていました。
ナプキンを広げるタイミング。
パンのいただき方。
カトラリーの使い方。
食事中の姿勢。
「この方の所作は美しいな」
そう感じる方がいると、そっと参考にしていました。
もちろん、じろじろ見るわけにはいきませんので(笑)、あくまでもさりげなく。
そうやって、実際の食事の場で少しずつ覚えていきました。
夫と結婚してからは、自宅にお客様をお招きする機会も増えました。
最初の頃は、テーブルセッティングを終えるたびに、
「これで合っている?」
と、夫に最終確認をしてもらっていました。
カトラリーの位置。
グラスの並べ方。
ナプキンの置き方。
ほんの少し位置が違うだけで、テーブル全体の印象が変わります。
それを何度も繰り返すうちに、少しずつ自分でも分かるようになりました。
最近では、我が家のテーブルセッティングのマニュアルを作成しています。
お手伝いさんがそのマニュアルを見ながら準備をし、最後に私が確認する。
以前は夫に確認してもらっていた私が、今では最終確認をする側になりました。
そう考えると、ずいぶん成長したものだと思います。
もちろん、今でも学ぶことはたくさんあります。

以前、あるガラパーティーで、隣に座っていた方が、何気なく私のパンを召し上がったことがありました。
最初は、
「あれ?」
と思いました。
正式なテーブルセッティングでは、パン皿は左側に置かれます。
そのため、左側が自分のパン、右側が隣の方のパンです。
でも、慣れていないと、どちらが自分のものか分からなくなってしまうこともあります。
日本では、箸の使い方を見れば「お里が知れる」と言われることがあります。
少し厳しい表現ではありますが、それだけ食事の所作には、その人の日頃の習慣が表れるということなのだと思います。
ヨーロッパのテーブルマナーも同じです。
ナイフやフォークの使い方だけではありません。
給仕の方への接し方。
隣の方への気遣い。
食事のペース。
会話を楽しむ姿勢。
そうしたすべてが、その人の印象につながります。
どれだけ高価なドレスやジュエリーを身につけていても、テーブルの上での振る舞いが美しくなければ、少し残念な印象になってしまいます。
でも私は、テーブルマナーは人を値踏みするためのものではないと思っています。
一緒に食事をする方が心地よく過ごせるようにすること。
お料理を作ってくださった方や、サービスをしてくださる方への敬意を表すこと。
そして、その場の空気を壊さないこと。
それが、テーブルマナーの本当の意味なのではないでしょうか。
箸であっても、
ナイフとフォークであっても、
大切なのは、作法そのものではありません。
その背景にある、相手への敬意と思いやり。
私はそんなふうに考えています。
